最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)437号 判決 1966年6月21日
上告人
小井手七郎
右訴訟代理人
小林寛
久保井一匡
被上告人
山口市
右代表者市長
兼行恵雄
右訴訟代理人
小河虎彦
塚田守男
松永芳市
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小林寛、同久保井一匡の上告理由第一点について。
不法行為による損害賠償の額を定めるにあたり、被害者に過失のあるときは、裁判所がこれをしんしやくすることができることは民法七二二条の規定するところである。この規定によると、被害者の過失は賠償額の範囲に影響を及ぼすべき事実であるから、裁判所は訴訟にあらわれた資料にもとづき被害者に過失があると認めるべき場合には、賠償額を判定するについて職権をもつてこれをしんしやくすることができると解すべきであつて、賠償義務者から過失相殺の主張のあることを要しないものである(大審院判昭和二年(オ)八〇二号・同三年八月一日民集七巻六四八頁参照)。
したがつて、これと異なり、過失相殺にもいわゆる弁論主義の適用のあることを主張する論旨は、失当として排斥を免れない。
同第二点について。
地方公共団体の長のする約束手形の振出権限については、法定の制限があるのであるから、控訴人(上告人)小井手七郎が本件各手形の振出について長井市長本人に確かめただけで、市議会の議決の有無などに関し、山口市吏員、山口市議会などについて調査をしなかつたなど原判決の認定した事実関係のもとでは、所論の過失相殺をした原判決の判断は、当審も正当として是認することができる。
原判決には、所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。
同三点について。
民法四四条の規定は、同条一項の理事その他の代理人がその職務を行うについて不法行為により他人に損害を加えた場合に法人に賠償責任を負わしめることを定めたものであるから、その賠償責任について、不法行為に関する民法七二二条二項の規定が適用されるのは当然である。
これと異なる論旨は、独自の見解であり、排斥を免れない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎 下村三郎)